糖尿病プラクティス
糖尿病プラクティス 37巻3号
糖尿病性腎臓病-その疾患概念と克服への挑戦-
糖尿病性腎臓病-その疾患概念と克服への挑戦-
糖尿病(性)腎症が,突然になぜ,糖尿病性腎臓病との名称に変わったのかと不思議に思われている読者の方々も多いと思う.もとをただせば,英語では糖尿病(性)腎症はdiabetic nephropathy であり,糖尿病性腎臓病はdiabetic kidney disease である.一般の方や患者には前者の“nephropathy”はなんなのかわかりづらいが,後者はkidney disease,そして最初にdiabetic がついているので,「糖尿病になると腎臓が悪くなるのだ」と考えるとわかりやすくなる.しかし,疾患概念があいまいであることも事実である.そこで本特集では,まず臨床的な糖尿病性腎臓病の疾患概念を糖尿病性腎臓病(diabetic kidney disease:DKD)と非糖尿病性腎臓病(non-diabetic kidney disease:NDKD)として,それぞれに対する治療法を概説した.
21 世紀に入り,血糖・血圧・脂質異常に対する治療法の進歩によって糖尿病性腎臓病の病態が変遷していることを,滋賀医科大学の荒木信一先生にわが国のデータも含めて概説していただいた.また,糖尿病性腎臓病から末期腎不全に至り透析療法を導入される患者は,ほかの腎疾患と比較するときわめて頻度が高いのも事実である.したがって,行政と医療関係者が連携体制を構築し,その取り組みを全国に展開するため,2016 年3 月に,日本医師会,日本糖尿病対策推進協議会および厚生労働省によって「糖尿病性腎症重症化予防に係る連携協定」が締結され,全国の市町村にて糖尿病(性)腎症の重症化予防が開始された次第である.そこで,日本慢性疾患重症化予防学会・代表理事の平井愛山先生に,ご自身が全国にて推進されている取り組みと,それらの成果を概説いただいた.
当然,糖尿病に起因する腎臓病なので治療の基盤は生活習慣の修正になる.特に,腎機能の低下した糖尿病性腎臓病にはたんぱく質摂取の制限も治療手段になるので,金沢医科大学の北田宗弘先生に生活習慣の修正を含めて概説いただいた.さらに,2015 年からSGLT2 阻害薬およびGLP-1 受容体作動薬といった数々の糖尿病治療薬の糖尿病性腎臓病に対するエビデンスが集積してきたので,岡山大学病院の四方賢一先生にまとめていただいた.しかし,それでもなお末期腎不全から透析導入に至る症例も残されており,どういった新たな治療手段がそれら残存リスクを克服できるかを,金沢大学附属病院の大島 恵先生に概説いただいた.
本特集を読者の皆様と共有でき,糖尿病性腎臓病の克服につながれば幸いである.(古家大祐/金沢医科大学 糖尿病・内分泌内科学)
糖尿病プラクティス
糖尿病プラクティス 37巻2号
糖尿病と心不全の新パラダイム-かつての常識はもはや通用しない?-
糖尿病と心不全の新パラダイム-かつての常識はもはや通用しない?-
糖尿病は高血圧とともに心血管病,特に虚血性心疾患と心不全の原因となる.また虚血性心疾患を合併していなくても,直接「糖尿病性心筋症」と呼ばれる心筋障害を引き起こす.さらに,心不全自体がインスリン抵抗性を惹起し耐糖能を悪化させ,さらなる悪循環を形成する.このため,糖尿病に合併した虚血性心疾患や心不全は重症になりやすく,予後も不良である.
ACE 阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)などのレニン・アンジオテンシン(RA)系抑制薬は,糖尿病による心筋障害を直接抑制する.さらに,糖尿病は心不全・心筋リモデリングを悪化させるが,これらもRA 系抑制薬によって抑制される.糖尿病による心筋障害の抑制には,血糖コントロールやインスリン抵抗性の改善も重要であると考えられる.近年,2 型糖尿病患者を対象とした臨床試験において,SGLT2 阻害薬が,心血管死・非致死性心筋梗塞・非致死性脳卒中からなる複合心血管イベント,さらに心不全による入院を有意に減少させたことが相次いで報告され,SGLT2 阻害薬の心不全に対する有用性が注目されている.さらに,DAPA-HF 試験でダパグリフロジンが駆出率の低下した心不全患者の心血管死および心不全による入院を抑制したことも報告された.
このような結果は,心不全の標準治療の上乗せで認められたこと,さらに糖尿病の有無やベースラインのHbA1c値にかかわらず認められたことから,SGLT2 阻害薬は糖尿病治療薬にとどまらず,新たな心不全治療薬としても注目されている.
近年の基礎・臨床研究により糖尿病と心不全の病態解明や評価法は大きく進歩した.さらに,大規模臨床試験によって糖尿病・心不全双方に有効性が期待される治療薬が登場してきた.「動脈硬化危険因子としての糖尿病」というかつての常識にとどまらず,糖尿病と心不全という密接に関連する2 つの疾患の病態と治療を新たなパラダイムで捉える時代が到来したといえよう.
本特集では,糖尿病と心不全の領域でわが国を代表する先生方に,それぞれの立場から病態・診断・治療の最新情報を概説いただいた.糖尿病そして心不全患者は世界中で増加しており,本特集が多くの先生方の診療・研究の一助となれば幸いである.(小川佳宏/九州大学大学院医学研究院 病態制御内科学,筒井裕之/九州大学大学院医学研究院 循環器内科学)
糖尿病プラクティス 37巻1号
SGLT2阻害薬の多面的作用への期待-あなたの処方・指導は変わるのか?-
SGLT2阻害薬の多面的作用への期待-あなたの処方・指導は変わるのか?-
従来の糖尿病治療薬は,インスリン分泌を促進する薬剤とインスリン抵抗性を改善させる薬剤が主であったが,sodium-dependent glucose transporter 2(SGLT2)阻害薬は,インスリン作用を介さずに血糖を低下させる薬剤であり,従来薬とは特徴が大きく異なる.糖尿病状態では尿細管におけるSGLT2 の発現量が多く,再吸収されるグルコースが健常者よりもさらに多いため,SGLT2 阻害薬の効果が発揮されやすい.一方,大規模臨床試験などにおいて,心臓および腎臓などに対して良好な作用を有していることが次々と明らかにされている.また,以前に懸念されていた副作用はあまり多くはなく,対象症例はかなり多いと考えられる.さらに最近,いくつかの種類のSGLT2 阻害薬はインスリンとの併用下で1 型糖尿病に対しても使用が可能になっている.
こうしたなかで,本特集においては各先生の専門とする分野でのSGLT2 阻害薬への期待について執筆いただいた.川崎医科大学の木村友彦先生には,SGLT2 阻害薬による膵β細胞保護作用の分子機構などについてご執筆いただいた.埼玉医科大学の及川洋一先生・島田 朗先生からは1 型糖尿病症例にSGLT2 阻害薬を使用することの有用性などについてご執筆いただいた.愛知医科大学の角田圭雄先生らからはSGLT2 阻害薬による肝臓保護作用の分子メカニズムなどについてご執筆いただいた.富山大学の絹川弘一郎先生からはSGLT2 阻害薬による最近の多くの大規模臨床研究の結果などをご紹介いただき,心臓保護作用の現状についてご執筆いただいた.島根大学の金﨑啓造先生からは「SGLT2 阻害薬による腎臓保護作用の可能性:Post SGLT2 inhibitor Era を見据えて」というタイトルで,SGLT2 阻害薬による腎臓保護作用の分子機構などをご執筆いただいた.本特集によってSGLT2 阻害薬に関する皆さんの理解が深まり,より有効的な使用方法につながれば,たいへん幸いである.(金藤秀明/川崎医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科)
雑誌『プラクティス』は,37巻1号より雑誌名が『糖尿病プラクティス』に改題されました
糖尿病プラクティス
プラクティス 36巻6号
糖尿病患者への個別化食事療法の実現に向けて-QOLと健康寿命の維持を栄養から目指す-
糖尿病患者への個別化食事療法の実現に向けて-QOLと健康寿命の維持を栄養から目指す-
糖尿病治療の本幹をなす食事療法は,広く国内で受け入れられ,糖尿病以外の領域でのガイドラインにも多く反映されてきた.しかし,薬物療法などと比較して,そのエビデンスレベルは不十分で,科学的根拠に基づく治療法として体系化されているとは言い難い状況であった.さらに,高齢者の増加や生活の多様化により,個別化治療を実現する食事療法の指針が求められている.そこで,日本糖尿病学会は,食事療法の国内外の科学的エビデンスを整理し,新たなエビデンスも加え,食事療法の再構築を進めてきた.その成果は「糖尿病診療ガイドライン2019」として,まとめられた.今回のプラクティスの特集では「糖尿病患者への個別化食事療法の実現に向けて─ QOLと健康寿命の維持を栄養から目指す─」と題して,これからの食事療法のありかたをエキスパートの先生方に解説いただいた.
まず,本特集を一緒に企画いただいた宇都宮一典先生から,「Overview ─糖尿病の食事療法を巡る課題」として,これまでの食事療法の考えかたの中心であった「総エネルギー摂取量」と「身体活動度」の算定において,年齢・フレイル・合併症など患者の多様性に基づく目安の設定について,その背景から新しい考えかたまでまとめていただいた.次に,勝川史憲先生からは,「リアルワールドのエネルギー必要量」として,二重標識水を用いた精度の高い代謝測定法に基づくわが国のエビデンスと,新しい総エネルギー摂取量の設定根拠を示していただいた.そして,臨床の場で食事療法のバイブルとして使用される食品交換表について,綿田裕孝先生らより「食品交換表のこれまでと現状と今後」として,これまでの食品交換表の変遷から,今後の目指す方向性に関し明確に示していただいた.さらに,食事療法への注意が必要な病態として,高齢者と腎症合併者を取り上げ,梅垣宏行先生らから「高齢者への食事療法の最適化」として,荒木信一先生からは「糖尿病性腎症における食事療法のありかた」として,それぞれ注意点をご解説いただいた.最後に,食品交換表に基づくカーボカウントの最新情報を「1 型糖尿病患者への食事療法:カーボカウントUpdate」として黒田暁生先生らに執筆いただいた.
本特集が,食事療法の変遷,これからの食事療法のありかた,そして残された課題について皆さんの理解を深めることに寄与し,個々の患者に対する最適な栄養食事指導の実践に貢献できれば幸いである.(松久宗英/徳島大学先端酵素学研究所 糖尿病臨床・研究開発センター)
糖尿病プラクティス
プラクティス 36巻5号
国際化時代の糖尿病診療-東京五輪・パラを目前にした新在留資格施行元年に-
国際化時代の糖尿病診療-東京五輪・パラを目前にした新在留資格施行元年に-
近年,わが国の医療の国際化には著しいものがあり,糖尿病診療の領域においても,この点は言を俟たない.のみならず,糖尿病の治療に生活習慣が大きく関与することから,食文化の違いが直接に影響を与えるなど,糖尿病診療への国際化の波は,他疾患に比べてより大きいといって過言ではないであろう.
“所変われば品変わる”という諺がある.英語における同様の表現として“So many countries, so many customs.”というものが挙げられるが,南谷かおり先生には,それ以上に多様な背景を有する外国人の診療実態について,現状の俯瞰とともに,糖尿病診療にも焦点を当てつつご解説いただいている.大野直子先生と石川ひろの先生には,文化と言語の面からのコミュニケーション論を中心に,具体的な方策についておまとめいただいた.
このように,外国人患者の糖尿病診療では,文化の違いや言語の障壁を正しく認識することの重要性が提起されるが,のみならず,医療制度の側面からも十二分な配慮が必要になってくる.今回の企画を担当した編者も,単著で,あるいは杉山雄大先生,岸本美也子先生,相良理香子先生との共著で,外国人糖尿病診療の実情や疫学的・臨床的事項について,制度的側面をも含めて本企画内で論述しているが,ことに相良理香子先生との項目では,医療費の支払いや病院選びの課題についても触れている.また,井花庸子先生には,糖尿病をもつ海外渡航者へのアドバイスについて通覧していただいている.
今号では,糖尿病診療における国際化の重要性に鑑みて,当該分野に造詣の深い諸先生方にご執筆をお願いしているが,とりわけ,厚生労働省の「訪日外国人旅行者等に対する医療の提供に関する検討会」の座長をお務めの遠藤弘良先生には,この方面での政府の取り組みなどに関して貴重な言及を賜っており,また,日本医師会常任理事の松本吉郎先生には,“特別寄稿”として,外国人医療に関する日本医師会の取り組みについて,日本医師会を代表してご紹介いただいている.
このように本特集は,外国人患者の糖尿病診療はもとより,その枠を超えて,外国人診療一般に関しても,深い論考と多彩な視点を有した,資料的価値をもそなえる保存版ともいうべき内容になっている.陽の当たる表の面のみならず,見落としがちな陰の側面にも広く光を当て,具体的な留意点について述べられている点も特徴であろう.
ご執筆の先生方のご尽力を多とするとともに,本特集によって,東京五輪・パラ五輪を目前にした,新在留資格施行の元年でもある令和の幕開けに,国際化時代の糖尿病診療についての読者の理解が格別に深まれば,編者として大きな喜びである.(野田光彦/国際医療福祉大学市川病院 糖尿病・代謝・内分泌内科,梶尾 裕/国立国際医療研究センター病院 糖尿病内分泌代謝科,中島直樹/九州大学病院 メディカル・インフォメーションセンター)
糖尿病プラクティス
プラクティス 36巻4号
糖尿病の運動指導:すぐに役立つ効果的アプローチ-最新のエビデンスと基礎データを活かす-
糖尿病の運動指導:すぐに役立つ効果的アプローチ-最新のエビデンスと基礎データを活かす-
令和新時代,いよいよオリンピックを来年に控え,スポーツや運動への国民的な関心と期待は高まり,国全体としてもこれに巨額の費用や多大な労力が費やされている.
われわれはトップアスリートたちのパフォーマンスに感動し,その活躍に大きな勇気や感動,楽しみをもらう.しかし同時にスポーツや運動は,われわれ自身の寿命や健康寿命,QOL,生きがいにも,大きな好影響をもたらすことができる.一過性のお祭りとして,テレビ観戦しているだけではあまりにもったいない.この半世紀ぶりの大イベントを機に,積極的にスポーツや運動を楽しむ人が少しでも増え,健康寿命延伸に貢献できれば,経済的波及効果よりむしろ最高のレガシーになるはずである.
糖尿病治療の3 本柱のひとつである運動療法は,食事療法や薬物療法に負けずとも劣らない大きな可能性あるいは「潜在的」効果を有し,そのエビデンスも充実してきた.あえて「潜在的」と表現した理由はもちろん,特に薬物療法と比較して,現場で十分に行われているとは言い難いからである.そもそも理学療法士・作業療法士・健康運動指導士を除く医療従事者は,身体運動学の系統的教育をほとんど受けていない.たとえば薬剤や食事の処方せんは,書きかたを医学部で習い,現場でも日常的に作成されるが,詳細な運動処方せんを作成する糖尿病専門医は多くない.さらに苦手意識をもつ人や興味のない患者にとって運動は,始めてもらうのも継続してもらうのも,むしろ薬より粘り強い指導が必要である.一方で近年,運動療法に用いられる運動の種類や概念の幅(たとえば,低強度の身体活動や「じっとしていないこと」,筋力トレーニングなど)が広がりつつある.このように,科学的エビデンスに基づいた運動療法を現場で上手に行うためには,多くの知識やテクニック,チームワークを必要とする.
本特集ではそのような背景に基づき,「効く」という根拠から「効かせる」ためのテクニックやシステムづくりに至るまで,それぞれのエキスパートの皆さんに,わかりやすく実践しやすいかたちで解説していただいた.
ぜひこれを教科書のひとつとして,運動療法の効果を,「潜在的」なものから医療者も患者も「実感できる」ものにしていただければうれしいかぎりである.(曽根博仁/新潟大学大学院医歯学総合研究科 血液・内分泌・代謝内科)
糖尿病プラクティス
プラクティス 36巻3号
糖尿病診療と医療のしくみ-行政の動きを臨床の視点から-
糖尿病診療と医療のしくみ-行政の動きを臨床の視点から-
●より質の高い糖尿病診療を目指して
糖尿病患者数が1,000 万人に達しているわが国の現状を考慮すると,糖尿病以外の疾患で入院する患者の多くが糖尿病を合併していることは容易に想像できる.実際,それらの患者が糖尿病以外の疾患に対する治療,たとえば悪性腫瘍の手術や化学療法などを受ける際にはじめて糖尿病に罹患していることが判明する例をよく経験する.この場合,血糖コントロール状態が不良である場合が多く,原病の処置の前に血糖の状態を調整し,より安全に処置ができるように対応する必要があるが,現在の保険診療上は,この血糖調整のための併診に対する診療報酬が設けられていない状態である.糖尿病の併存により,他疾患の手術時の予後(入院期間や術後合併症率など)が不良となることが示されており,糖尿病専門医による「血糖調整のための併診」は医療の質を担保するうえできわめて重要である.
今回,診療報酬を度外視して診療科横断的な治療介入を行っている施設の現状や,糖尿病があることでのリスク例を取り上げ,さらに日本糖尿病学会の取り組みについてもご提示いただくことを企画した.本企画が,より質の高い診療の一助となることを祈念している.(島田 朗/埼玉医科大学 内分泌・糖尿病内科)
●社会における糖尿病診療のありかたを考える
糖尿病診療の実践には,一定レベルの基礎医学の知識や臨床医学の知識が必要である.それらは,各種の教科書やガイドラインなどでも多くの知識を得ることができる.その一方で,わたしたち医療者や患者は実社会に生きている人間である.医療は法制度で縛られており,医療者の希望がすべてかなうわけではない.最先端の医療が実用化される一方で,超少子高齢社会に入り社会の医療資源はますます限られてきた.のみならず,患者の経済状況や家庭環境,職場状況もわれわれが考慮すべき重要事項である.医療者が活用したい診療情報は,患者にとっては重要な個人情報でもある.医療者はこれらの実社会の動向にも目を向けて,行政の考えかた,介護など他領域との関わり,学会の動向,法制度の整備の方向性などの知識を蓄えておかなければ,患者を幸福にできるとは限らない.
本「プラクティス」誌では,基礎医学・臨床医学の知識提供に加えて,このような社会に関する医学課題を解決するための社会医学についても時に応じて紹介することが重要だと捉えており,今回の特集となった.日常診療の背景のご理解や,今後の診療の方向性をご検討いただくための参考にしていただければ幸甚である.(中島直樹/九州大学病院 メディカル・インフォメーションセンター)
糖尿病プラクティス
プラクティス 36巻2号
糖尿病と時間生物学-生活習慣病としての糖尿病と体内時計との関連-
糖尿病と時間生物学-生活習慣病としての糖尿病と体内時計との関連-
病気には時間と関係の深いものがあり,朝方に多いのは心筋梗塞や脳梗塞,夜にかけて多いのはリウマチなど関節の痛みや心不全,ぜんそく発作などである.24 時間の時間周期は地球の自転によるところであるが,明暗の周期や月と地球のあいだに起こる潮汐力など時間とともに移り変わる地球上の現象の影響を受けて,生物の活動も変化する.この“時間とともに変化する生命活動”と疾病の関係については,昨年のノーベル医学賞で時計遺伝子の研究が受賞したことから,今後この領域の研究が発展していくものと期待される.糖尿病も2010 年に時計遺伝子と膵 β 細胞の関わりが明らかになってから(Nature,466:627~631,2010),糖尿病が時間との深い関わりをもつこともわかってきた.今回の特集は,こうした糖尿病と時間,あるいは明暗の周期による睡眠・覚醒といった生理的な活動と糖尿病がいかに関連しているか,その理解の一助になればと願い,国内におけるこの分野の研究に造詣の深い方々にご執筆いただいた.
本特集の最初には概日リズム(サーカディアンリズム)と睡眠に関わる科学について基礎医学の立場から,名古屋大学の小野大輔先生にご解説をいただいている.山口大学の太田康晴先生からは概日リズムとインスリン分泌,インスリン抵抗性といった糖尿病に関わる内容についてご解説いただいた.富山大学の笹岡利安先生方からは睡眠と覚醒に関わるオレキシンの観点から,糖尿病の治療戦略を解説いただいた.糖尿病の栄養学的な視点から,時間栄養学について早稲田大学の柴田重信先生から詳しくご解説をいただいた.メタボリックシンドローム・糖尿病・肥満など代謝制御について,臨床的な観点から時間栄養学の解説を,名古屋大学の小田裕昭先生方よりいただいた.
最後に,どのような時間に運動をすればよいかなど,24 時間のエネルギー代謝の観点から基礎的な解説をいただいたのは,筑波大学の田中喜晃先生方である.そして,まさに糖尿病の血糖変動を24 時間のエネルギー代謝から臨床的な視点でご解説いただいたのは国際医療福祉大学塩谷病院の山内恵史先生方である.これらの専門の先生方からまさに時間と睡眠・栄養・糖尿病との関わりのエッセンスについて論文をいただいており,読者諸兄の忌憚のないご意見をいただければ幸いである.
(NTT東日本札幌病院 黒瀬 健・中之島クリニック 吉岡成人)
糖尿病プラクティス
プラクティス 36巻1号
低血糖はなぜいけないか-臨床・疫学・社会からのアプローチ-
低血糖はなぜいけないか-臨床・疫学・社会からのアプローチ-
現代の糖尿病治療で低血糖がよくないということに異論を唱える人はだれもいないと考えられる.
しかしながら,30 年程前には著名な糖尿病の教科書に「グリコヘモグロビンを低下させるためには多少の低血糖もしかたない」という記載があった.グリコヘモグロビンと糖尿病合併症の関係が次々と明らかになり,数値を改善させることが糖尿病の治療の目標であり,SU 薬とインスリンしかなかった時代を反映していたと考えられる.
その後,なんとなく低血糖が臨床上悪いような印象があったのであるが,低血糖をきたさない糖尿病治療薬が次々と登場し,ACCORD 試験の結果から糖尿病治療における低血糖と死亡リスクに対する関心が一気に高まった.
本特集では,低血糖の臨床・疫学・社会からのアプローチとして,各分野のエキスパートに執筆をお願いした.麻生好正先生には低血糖の定義と,臨床的に問題となっている高齢者や夜間の無自覚性低血糖の病態・診断・治療について詳細に解説していただいた.辻本哲郎先生には重症低血糖では何が起き,どのような危険が潜んでいるかについて豊富な自験データを交え執筆いただいた.さらに,そのなかで特に問題となる,心疾患,認知機能に関して,それぞれ,後藤 温先生,鈴木 亮先生に病態と疫学について解説していただいた.低血糖はほとんどが糖尿病治療に伴うものであるが,それ以外の原因による低血糖も日常臨床では看過できない.恒川 新先生には内分泌疾患や薬物などによって生じる低血糖について概説いただいた.低血糖による交通事故は,被害者はもとより,加害者・主治医にとっても痛ましいことである.わたしどもが気をつけておかなくてはならない,低血糖や薬物療法中の交通事故の法的解釈について,医師であり弁護士でもある田邉 昇先生に判例を交えて寄稿いただいた.
本特集によって読者の皆様の低血糖に対する理解が深まり,糖尿病患者のQOL 向上につながれば幸いである.(みうら内科クリニック 三浦義孝)
新型コロナウイルス感染症と血管内皮
循環器予防医学の視点から探る重症化予防策のヒント
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では,基礎疾患を有する患者の死亡率が高いことが報告されており,高齢者や喫煙者では重症化しやすいことも明らかになっている.本書では,循環器予防医学の視点からCOVID-19の病態生理について解説し,重症化の予防や診断・治療に関して新たな戦略となりうる概念をまとめた.
J. of Clinical Rehabilitation 29巻13号
ウィズコロナ・ポストコロナ時代のリハビリテーション
ウィズコロナ・ポストコロナ時代のリハビリテーション
2020年は東京オリンピック・パラリンピックをはじめとして,だれもが華やかな年になることを想像していたのではないだろうか.しかし,年明けから新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中で猛威をふるい残念な結果を迎えた.2020年11月1日現在,世界中で4,594万2,902名の感染者が報告されており,死者は1,192,644名に達している.感染者数は国別に,米国8,952,086名,インド8,184,082名,ブラジル5,516,658名と続いている.わが国では感染者102,062名(クルーズ船712名を除く),死者1,775名(クルーズ船13名を除く),と報告されている.第2波も到来し,状況は深刻さを増しており,事態の長期化は避けられず,医療界のみならず社会全体での対応が否応なしに求められている.また,リハビリテーションの主な対象者である高齢者や重症患者がCOVID-19で重篤になりやすく,その治療の困難さや感染の蔓延化に悩まされている現状がある.
これまでのリハビリテーションは,患者に寄り添うため「3密状態」で行うのが当然のことであった.しかし,COVID-19患者に際してはリハビリテーション医療関係者の厳格な感染予防管理が必須となり,可能な限り「3密回避」が必要となって,状況が一変した.さらに,第2波への対応,再感染予防,第3波の防止,後遺症にどう対応するか,地域医療構想にどう反映させるか,感染対策と医療経済・国民経済の両立をどうするか等,多くの国民的課題への対応が求められ,テレビ,新聞,インターネット等,マスコミでもCOVID-19の話題を聞かない日は皆無である.
本特集では,このようなウィズコロナ時代ならびに将来のポストコロナ時代において,リハビリテーション医療全体にどのような影響が生じるのか,医学史的にはどうか,病院・施設での感染予防対策や感染者のリハビリテーションをどのように行うべきか,といったテーマを取り上げた.執筆者は,COVID-19対応経験のある先生を中心に,極めて充実した内容になっている.すなわち,上月先生らからは,総論としてCOVID-19がリハビリテーションにもたらす影響を,佐々木先生らからは急性期病院での重症COVID-19患者へのリハビリテーションの実際を,土岐先生らからは急性期病院でのCOVID-19院内感染対策を,岡本先生らからは回復期・生活期リハビリテーション病院でのCOVID-19院内感染対策を解説していただいた.また,海老原先生からはウィズコロナ・ポストコロナ時代のフレイル対策とリハビリテーションを,江藤先生からは医学史からみた感染症パンデミックとリハビリテーションを解説していただき,共通課題としてのフレイル対策や医学史からみたCOVID-19の位置づけ等を俯瞰していただいた.
本特集は,ウイズコロナ・ポストコロナ時代において,読者がリハビリテーション医療職として,患者や社会に対してどのような役割を果たせるのか,どのように「変化」していかねばならないのかを考えるのに役立つものと期待している.(編集委員会)
J. of Clinical Rehabilitation 29巻12号
サルコペニアの診断,治療,予防
サルコペニアの診断,治療,予防
サルコペニアがRosenbergにより世界で初めて1989年に提唱されて約30年が経過した.その後,病態,診断等の研究が進み,骨格筋量の低下と筋力/身体機能低下をもつ病態としてサルコペニアが定義されるようになった.さらに,サルコペニアは高齢者においてその健康寿命を脅かすだけではなく,さまざまな疾患に関連し,その予後に影響を与えることが明らかとなってきた.これらの研究の進展を受けて,欧州やアジアの各地より専門職によるワーキンググループが立ち上がり,操作的定義や予防,治療の提言がなされるようになった.日本を含むアジアの各国ではAWGSを用いたサルコペニアの診断が多くなされるようになり,サルコペニアの研究が飛躍的に進歩した.さらに2016年にはサルコペニアがICD-10のコード(M62.84)を取得し,国際的にサルコペニアが独立した疾患として認識されるに至った.わが国でも2018年よりサルコペニアがレセプト病名となった.
リハビリテーションにおけるサルコペニアの有病率は比較的高く,約50%である.さらに,サルコペニアはリハビリテーションにおける日常生活動作(ADL)や嚥下障害の改善,自宅退院率等の重要なアウトカムと負の関連がある.健康面では,サルコペニアは,転倒と骨折のリスクを増加させ,ADLの低下,心疾患,呼吸器疾患および認知機能障害に関連する.また,運動障害を引き起こし,生活の質(QOL)の低下,自立性の喪失や長期にわたる介護の必要性,あるいは死亡のリスクとなる.また,サルコペニアに対する治療的介入は運動療法と栄養療法の併用が原則である.しかし,リハビリテーションの領域で適切にサルコペニアがスクリーニング,診断され,治療が行われているとは言い難い.機能障害に対するリハビリテーションの標準的プログラムに加えて,レジスタンストレーニングの処方や,高たんぱく質高エネルギーの栄養サポート,口腔や嚥下管理,薬剤管理等,多職種の連携が重要である.
本特集では,リハビリテーションの医療者が知っておくべき筋疾患としてのサルコペニアの診断,治療,予防について最新の知見をまとめた.いずれの項目も最新情報が掲載されており,いずれの執筆者もこの領域におけるオピニオンリーダーである.多忙の中で執筆していただいた各先生方に心より御礼を申し上げる.サルコペニアはリハビリテーション医療の対象疾患のひとつである.リハビリテーション医療の日常診療でサルコペニアを診断・治療し,医原性サルコペニアを予防することが当たり前になり,高齢者の機能・活動・参加が最大化されることを期待する.本特集がこの領域におけるスプリングボードになれば幸いである.(編集委員会)
J. of Clinical Rehabilitation 29巻11号
後天性脳損傷者の自動車運転再開に向けた診断と指導
後天性脳損傷者の自動車運転再開に向けた診断と指導
近年,高齢者,認知症者の運転による交通事故,さらに,脳卒中や脳外傷等の後天性脳損傷に起因する症候性てんかんによる自動車事故に関する多くの報道から,脳損傷者の運転能力の有無,運転免許所持の是非を問う社会的関心が極めて高くなった.しかし一方で,自動車運転は,社会参加,社会復帰のためには必須となる地域が数多く存在することから,運転能力評価にかかわる多職種間で,安全運転に必要とされる一定の基準を共有することが求められている.この傾向は,車社会先進国といわれる欧米において顕著にみられる.
英国では,政府が運転免許庁(Driver and Vehicle Licensing Agency;DVLA)を設置し,医療専門職向けに140 ページにわたり,各種疾患に起因する障害者の運転の適否を示したガイドラインを作成している.また米国では,米国医師会が,300 ページ以上にわたって,“Clinician’s guide to Assessing and Counseling Older Drivers” と題する高齢ドライバーの運転基準を,運転リハビリテーション専門師協会が運転能力にかかわる各障害に関するチェックポイントを52 ページにわたりガイドラインとして公表している.また,カナダ医師会は医師に対し,「患者の運転能力を適切に判断するべきである」とし,判断材料の一助として,“Determining Medical Fitness to operating Motor Vehicles” と題する冊子を公表している.さらに,欧州連合(EU 運転免許制度)でも,一般運転手と職業運転手を分けて運転再開基準を提示している.このように欧米の先進諸国では,統一した運転再開基準が公表されている.
しかし,わが国ではいまだこのようなガイドラインは作成されていない.そこで,本特集では,第一線で自動車運転支援に精力的に取り組んでおられる先生方に,わが国に即した運転再開の基準について,minimum requirement として,その要点をまとめていただいた.
本特集は,まずはじめに,運転再開支援を行ううえで必要な各種制度について,森口真吾先生,一杉正仁先生に,わが国の道路交通法,運転再開の手順,事故時の医療者および事故当事者の法的責任等を解説していただいた.次いで,武原 格先生に,自動車運転に必須な身体機能を,四肢体幹,視覚,聴覚機能,高齢者に分けて解説いただき,あわせて身体障害を補うべく自動車改造についても触れていただいた.加藤徳明先生には,自動車運転に必須な高次脳機能について,その内容,検査方法のご説明をいただいた.さらに高齢者の運転についてのチェックポイントも示していただいた.そして,後天性脳損傷者に合併しやすい循環器疾患,糖尿病,睡眠時無呼吸,そして薬剤に関する考え方を,渡邉 修先生にまとめていただいた.最後に,地域における自動車運転支援の実際を,富山県の指導方法を例に,影近謙治先生にご提示いただいた.
以上,5 項目の内容は,自動車運転を再開する後天性脳損傷者を指導する専門職にとって,minimum requirement の知識である.運転再開を支援する専門職の皆様にとって,少しでもお役に立てていただければ幸いである.(編集委員会)
J. of Clinical Rehabilitation 29巻10号
ここまで来た ロボットリハビリテーション
ここまで来た ロボットリハビリテーション
最近はリハビリテーション(以下リハ)医学,医療の分野でロボットを目にする機会が急増している.大規模な国際学会,国内学会では当然のようにリハロボットの展示が行われ,国際的にも熾烈な開発競争が行われており,わが国においても多くのリハロボットが開発されている.ロボットリハの最大の長所は多様な課題を同じ条件で多数回行えることである.しかし,単にロボットを使えば効果があるわけではなく,ロボットリハを行うためにはこれまでのリハ医療で培われた多くの概念,特に運動学習の知識と応用が重要である.運動学習による行動変化のためには訓練量,フィードバック,適切な難易度の調整が特に重要である.訓練量はロボットを用いたリハ医療では比較的獲得しやすいので,フィードバック方法と難易度の設定が鍵となり,既にそれらを組み込み済みのロボットも出現している.さらに2020年4月の診療報酬改定により運動量増加機器加算が新設されたことも追い風となっている.
一口にリハロボットといっても多くの違いがあり,本特集では5つのロボットについて各先生から解説いただいた.内山侑紀先生(兵庫医科大学リハビリテーション科)からはイスラエル製のロボットを日本人の体型に合わせて改良した上肢用ロボット型運動訓練装置ReoGo®-J について,中島 孝先生(国立病院機構新潟病院脳神経内科)からは既に神経筋疾患に対して医療機器としての承認を受けているHAL医療用下肢タイプについて,平野 哲先生(藤田医科大学医学部リハビリテーション医学I講座)からは片側下肢麻痺患者の歩行練習支援に特化したウェルウォークについて,松下信郎先生(西広島リハビリテーション病院)からは軽度から中等度の歩行障害を対象としたHonda歩行アシスト®について,上野 真先生(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科リハビリテーション医学)からはリーチング動作の実現を目的とした上肢用ロボットCoCoroe AR2についてそれぞれ解説いただいた.ロボットによっては使用前に講習が義務づけられているものもあり,価格もさまざまである.今後もリハロボットはさらなる発展を遂げる分野であるが,ロボットは決して療法士の代わりにリハ治療を行う存在ではなく,リハ医療全体の中でどのようにリハロボットを使っていくかが問われる.state-of-the-artに触れることで,リハ医学の進歩を味わって欲しい.(編集委員会)
J. of Clinical Rehabilitation 29巻9号
摂食嚥下障害に対する電気・磁気刺激療法
摂食嚥下障害に対する電気・磁気刺激療法
摂食嚥下障害は特に高齢者にとっては最後の楽しみともいわれる「食べる楽しみ」を奪う原因となり,リハビリテーション(以下リハ)医学,医療においては日常生活活動の中でも極めて重要な分野である.摂食嚥下障害に対しては多くのリハ治療法が用いられているが,残念ながらエビデンスのあるものはまだ少ない.一方,電気刺激療法はかなり古い歴史があり,20世紀後半からは電気刺激療法,磁気刺激療法がリハ医療においても積極的に使用されるようになってきている.最も普及しているのが末梢神経に対する電気刺激療法であり,わが国においても日常のリハ診療で広範に用いられている.また,最近は一部の施設においては経頭蓋直流電気刺激,経頭蓋磁気刺激も積極的に行われている.しかし,摂食嚥下障害に対する電気・磁気刺激療法は比較的最近行われるようになったことからその普及はまだ十分ではない.
本特集では,5人の専門家から執筆いただいた.藤田医科大学医学部リハビリテーション医学I講座の加賀谷 斉先生からは,オーバービューとして電気・磁気刺激療法を解説いただいた.電気・磁気刺激療法にはそれぞれ中枢神経刺激,末梢神経刺激が存在することから,その後に各論として,経頭蓋直流電気刺激療法について聖隷淡路病院の重松 孝先生,神経筋電気刺激療法について日本医科大学大学院医学研究科リハビリテーション学分野の松元秀次先生,反復経頭蓋磁気刺激療法について三重大学大学院医学系研究科リハビリテーション医学分野の百崎 良先生,末梢神経磁気刺激療法について藤田医科大学医学部リハビリテーション医学I講座の戸田芙美先生から執筆いただいた.特に神経筋電気刺激療法については現在市販されている製品も多いことから,各製品についても触れていただいた.Q&Aでは,「摂食嚥下障害に対する適用はいつからどのように始まったか?」「適応と禁忌,使用方法は?」「どのような効果が得られるか?」「今後の展望は?」等各治療法のポイントについてまとめてもらっている.
摂食嚥下障害に対する電気・磁気刺激療法は歴史が浅いこともありまだ十分に広まっているとは言い難いが,近年はそのエビデンスが蓄積されつつある.特に電気刺激療法はリハ関係者にとってなじみ深い治療法であり,エビデンスのある治療法が少ない摂食嚥下障害に対しての電気・磁気刺激療法は注目すべき治療法と思われる.今後の発展も期待され,必要に応じて積極的に活用いただきたいと願っている.(編集委員会)
J. of Clinical Rehabilitation 29巻8号
心血管疾患のリハビリテーションup to date
心血管疾患のリハビリテーションup to date
わが国における身体障害者手帳所持者数の中で内部障害は肢体不自由に次いで多く,内部障害の過半数が心臓機能障害である.そして,心血管疾患のリハビリテーション(以下リハ)については質の高いエビデンスも既に得られている.しかしながら,わが国において心血管疾患のリハは普及が最も遅れている分野の一つではないだろうか.その原因としては,他の分野のリハに比してリスク管理が難しい,循環器内科医や心臓血管外科医の十分な協力が得られないと行いにくい等が考えられる.けれども,心血管疾患のリハは急性期のみならず,回復期,生活期と生涯継続されるべきものである.特に,急性期病院では在院日数短縮のため十分なリハを受けられないまま退院せざるを得ないケースも多いと思われるが,その後のリハについても不十分であるのが実状である.
本特集では,特に5つの病態についてそれぞれのエキスパートからup to dateな情報を執筆いただいた.埼玉医科大学国際医療センターの牧田 茂先生からは心筋梗塞,藤田医科大学病院の河野裕治先生からは心不全,順天堂大学保健医療学部の高橋哲也先生からは心臓外科手術後,聖隷浜松病院心臓血管外科の立石 実先生からは小児心疾患,東北大学大学院医学系研究科の三浦平寛先生からは心臓移植後をテーマとして,それぞれ,急性期,回復期,生活期のリハはどのように行うか? さらにはリハ専門職に望むことについて述べていただいた.心筋梗塞,心不全,心臓外科手術後は特に急性期病院ではよく出合う疾患や病態であるが,たとえ自分の専門領域でも常に最新の情報を把握するのは決して容易ではない.本特集が皆さんの知識の上書きに役立てることを期待している.また,小児心疾患,心臓移植後については,経験したことのないリハ専門職も多いと思われるが,臨床の場面においては待ったなしであり,急に対応を求められたときに本特集が有益な情報になることは間違いないと思われる.
本特集においては特に各テーマ内の“リハ専門職に望むこと”をぜひ読んで欲しい.心血管疾患のリハにおいてもリハ専門職は多くのことを期待されているのである.残念ながら,期待に十分応えられていないのが現状ではあるが,いつまでもそれが許されるわけではない.本特集を契機に多くのリハ専門職が心血管疾患のリハに興味をもち,心臓機能障害をもつ多くの患者さんに役立てることを期待する.(編集委員会)
J. of Clinical Rehabilitation 29巻7号
臨時増刊号
脊髄損傷のリハビリテーション医学・医療―最前線と未来への展望
脊髄損傷のリハビリテーション医学・医療―最前線と未来への展望
この臨時増刊号の企画を構想していた昨年の秋頃は,2020年夏に開催される東京パラリンピックを世界中のパラアスリート,そして私も含め多くの人々が待ち望み,楽しみにしていた.しかし,2020年になり新型コロナウイルスの感染拡大により世界の状況は一変し,3月にはWHO がパンデミックを宣言し,4月には日本でも緊急事態宣言が発令された.そして,残念ながら東京オリンピック・パラリンピック開催の1年間の延期が決まった.ただ,今はこの難局を世界中の人々が協力し知恵を出し合い乗り越えていくことが大切である.この難局を乗り越えた先に,世界中の人々の団結の証として新しい時代に向けた象徴的な大会として東京オリンピック・パラリンピックが開催されることを願う.
日本では,1964年にパラリンピックが,今回と同じ東京でオリンピックとともに開催されている.56年前に開催された東京パラリンピックは,中村裕先生の尽力により実現した.中村裕先生は,1960年にグッドマン博士が英国のストークマンデビル病院で脊髄損傷者の治療にスポーツを取り入れていることに感銘を受け,わが国においても脊髄損傷者のスポーツ参加を積極的に進めた.そして,現代の障がい者スポーツの基礎を築くと同時に,脊髄障害者に積極的にスポーツをさせて社会参加させるという考えは,脊髄損傷者のリハビリテーション医療に大きく貢献した.このときから約50 年間が過ぎ,脊髄損傷者のリハビリテーション医学・医療は大きく発展した.電気刺激やロボット技術を利用した機能再建,ボトックスやITB による痙縮治療等さまざまな新しい治療が開発され,そして,再生医療も現実のものとなり脊髄損傷者のリハビリテーション医学・医療にも大きな変革が起きようとしている.さらに,脊髄損傷者の治療として始まった障がい者スポーツも,今や非常に高レベルの競技スポーツに発展している.
50年以上の歴史を経て,再び東京でパラリンピックが開催される.脊髄損傷者を含むわが国の障がい者スポーツを未来に向けて発展させる大会になることは間違いない.本臨時増刊号も,障がい者スポーツを含め脊髄損傷者のリハビリテーション医学・医療の新しい未来への発展に寄与できる内容にしたいと考え企画した.そこで,テーマを「最前線と未来への展望」とし,脊髄損傷者の障がい者スポーツも含めたリハビリテーション医学・医療の最新の知見と未来への展望について,それぞれの分野の第一線で活躍されている先生方にご執筆いただいた.さらに,巻頭の座談会では,東京パラリンピックに向けた障がい者スポーツの現状と未来について,東京パラリンピック開催に向けて第一線で活躍されている陶山哲夫先生,三井利仁先生,安岡由恵先生にお話を伺った.また,コラムではトピックス的な内容も含め,脊髄損傷者のリハビリテーション医療や障がい者スポーツにかかわるすべての方々に,ぜひ知っていただき実践で役立ててもらいたい項目を選び執筆いただいた.本臨時増刊号が脊髄損傷のリハビリテーション医学・医療の新しい未来への発展に少しでも寄与できれば幸いである. (編者:中村 健)
J. of Clinical Rehabilitation 29巻6号
小児のリハビリテーション
小児のリハビリテーション
わが国では少子高齢化の進行が止まらない.厚生労働省の発表によれば,2019年の日本人の国内出生数は86万4千人となり,1899年の統計開始以降初めて年間出生数が90万人を下回った.第1次ベビーブーム期の約270万人,第2次ベビーブーム期の約210万人という数に比べれば少子化がいかに進んだかがわかる.この小児人口の減少は,医療の現場にもさまざまな変化をもたらしている.臨床現場全体では,経験する小児疾患の頻度が少なくなり,分野によっては小児患者への対応に苦慮することが多くなっている.一方で,小児疾患の診断や治療の進歩は著しく,小児の成長を取り巻く環境も変化している.その結果,リハビリテーション医として知っておくべき新しい疾患概念や治療法が登場している.そこで本特集では最近の小児リハビリテーション医療のトピックを取り上げ,以下のように解説いただいた.
オーバービューでは井之上寿美先生ら(島田療育センターはちおうじ)に小児におけるリハビリテーションの特徴と最近の課題を示していただいた.近年,児童・生徒の運動器検診が推進されている.帖佐悦男先生(宮崎大学)には膨大なご自身の調査結果から小児の運動器の機能不全を早期に見い出し,将来のロコモティブシンドロームを予防することの重要性を提示していただいた.小児を対象としたロボットリハビリテーションに関する最近の話題を上野友之先生(筑波大学整形外科)に執筆いただき,脳性麻痺児に対する歩行練習・歩行補助具としてのロボット,装着型歩行訓練ロボットの最新の話題を紹介いただいた.また,小児の心疾患術後のリハビリテーションについて,鈴木孝明先生(埼玉医科大学国際医療センター)に疾患の特徴と術式を詳説していただいた.NICUを有する施設では超未熟児に対する理学療法や言語聴覚療法の依頼が多いため,欅 篤先生(高槻病院リハビリテーション科)にNICUで必要なポジショニング,呼吸理学療法,哺乳指導,発達支援について解説いただいた.半澤直美先生(よこはま港南地域療育センター)にはリハビリテーション医が知っておくべき発達障害の診断や支援のあり方等を解説いただいた.
小児に対するリハビリテーション医療は長い期間にわたることが多く,その中で最適な治療を実施することが求められる.本人へのアプローチと同時に,両親や家族に対する対応も必要で,リハビリテーション医が最新の知識を確認しておくべき分野である.本特集が小児リハビリテーション医療の現場に貢献できれば幸いである.(編集委員会)
J. of Clinical Rehabilitation 29巻5号
腰痛のリハビリテーション
腰痛のリハビリテーション
日本人での腰痛有訴率は40~50%とされ,頻度の高い疾患である.腰痛は短期間に改善する例がある一方で,原因が不明で治療に難渋する症例も多い.スポーツに起因する腰痛や小児での腰痛は病態の把握や治療が困難な場合が多く,臨床現場で問題となる.超高齢社会を迎えたわが国では,ロコモティブシンドローム(ロコモ)やサルコペニアが注目され,その腰痛とのかかわりが指摘されている.また,最近では腰痛を器質的異常としてのみではなく,心理的・社会的疼痛症候群としてとらえることの重要性が認識されるようになった.運動療法は腰痛の多くの例に対して中心的な治療法である.そこで本特集では腰痛に関するこれらの最近のトピックを取り上げ,運動療法をはじめとしたリハビリテーション医療でのポイントを解説いただいた.
スポーツ障害で生じる腰痛は頻度が高く,保存治療が選択されることが多い.金岡恒治先生(早稲田大学)に腰痛の誘発動作による分類をお示しいただき,病態と具体的な運動指導を詳述いただいた.アスレチックリハビリテーションの現場で直ちに役立つ内容である.小児での腰痛は頻度が低いものの,種々の原因疾患のスクリーニングと的確な病態の把握が重要である.後藤 強先生(徳島大学)には小児の腰痛の病態に応じた具体的な治療プログラムをご提示いただいた.サルコペニアは高齢者の増加にともなって腰痛の原因として重要な位置を占めるようになった.診断基準が確立されているが,その病態は多彩で治療法も確立していない.そのなかで運動療法は最も推奨される治療で改善効果が期待される.酒井義人先生(国立長寿医療研究センター)には腰痛とサルコペニアに関する現時点での最新の知見を解説いただいた.ロコモは加齢にともなって運動器が障害され移動機能が低下している状態と定義される.ロコモに占める脊椎疾患の割合は高く,腰痛を有する例が多い.粕川雄司先生(秋田大学)にはロコモと腰痛の関連を説明いただき,具体的な運動療法を示していただいた.腰痛には心理社会的因子が影響することは古くから知られていて,その評価の重要性が強調されている.そこで最近は画像所見のみによらず,多面的評価が求められている.中楚友一朗先生(愛知医科大学)には実際の評価方法とその結果に基づくリハビリテーションの実際を解説いただいた.
『腰痛診療ガイドライン2019』(日本整形外科学会診療ガイドライン委員会,腰痛診療ガイドライン策定委員会)では,運動療法について急性腰痛,亜急性腰痛,慢性腰痛のそれぞれについて評価された.そのうち急性腰痛と亜急性腰痛に対してはエビデンスが不明であるとされるものの,慢性腰痛に対しては,「運動療法は有用である」ことが強く推奨(推奨度1,エビデンスの強さB)されている.本特集がリハビリテーション医療の現場で,腰痛に対する病態に応じた最適な運動療法実施に貢献するものと期待している.(編集委員会)
J. of Clinical Rehabilitation 29巻4号
内部疾患の運動療法のエビデンスと実践
内部疾患の運動療法のエビデンスと実践
運動療法は理学療法,作業療法を含めたリハビリテーション(以下リハ)の一部という認識であったが,リハとは切り離されて1 つの独立したものとして扱われていると感じたことがある.かなり前のことであるが,コメディカルのリハの教科書編集に携わった際に,医学全集を多く手掛けていらっしゃる監修者から,本のタイトルを「リハビリテーション・運動療法」にして心疾患等に対する運動療法を強調してほしいと言われた.運動療法はリハに含まれ,また運動療法には筋力増強や関節可動域訓練もあることから,タイトルとして違和感があると反論した.ところが,医療全体からみると運動療法は食事療法と並び予防医学の見地からも語られるべきものであると言われ,リハとは別扱いしたほうがわかりやすいとのことであった.リハというと障害の三次予防に位置付けられるが,一般の医療従事者からみると健常者の一次予防,発症後の疾病の二次予防への運動療法の役割のほうが重要というわけである.
本特集で扱う運動療法の対象は循環器,代謝疾患等のいわゆる内部疾患である.特に心疾患,末梢動脈疾患の運動療法には多くのエビデンスが蓄積されている.臨床的な効果の実証のみならず,分子レベルでのメカニズムが解明されつつある病態も少なくない.有酸素運動というシンプルなモデルが研究しやすいのかもしれないが,運動器,脳血管障害のリハのエビデンスを一歩リードしていることは確かである.しかし,決して有酸素運動だけではなく,最近では筋力増強,さらには多職種が関与する包括的リハも唱えられていて,リハにおける内部疾患,運動療法の重要性は増している.
リハ従事者の運動療法への関心はかつて大きいとはいえなかった.運動学習を一大命題として掲げるリハ医にとっても,スキルを志向する療法士にとっても,シンプルな運動療法をリハの使命と考えていなかったのかもしれない.しかし,急性期病院でのリハが医療の中で重視され,リハ従事者に心疾患を主とするリスク管理の知識とスキルが求められるようになり状況は変わった.内科医が専門的にリハ医療に携わるようになったことも転機だったと思う.また,認定あるいは専門理学療法の1 つの領域,つまり心リハを中心とした内部障害理学療法としてまとめられたことも方向性を示した.加えて,自転車エルゴメータ等を用いて行う運動負荷試験に療法士が直接関与するようになり,身近な存在になっていることも重要な要素である.
内部疾患の定義は曖昧で,本来は呼吸器や腎疾患も含むと思うが,本特集では運動療法のエビデンスの視点で循環器疾患と糖尿病に焦点をあてて,各々の領域の専門家に実践的見地に立って執筆いただいた次第である.(編集委員会)
